礼を尽くすー阪神ファンの彼女から届いた手紙ー

長らく訪問診療をしていたが、家族の事情で引っ越しをすることになった女性患者との思い出。

■通院が困難だった女性との出会い
糖尿病や高血圧に加え、心機能の低下がみられ、複数の薬が必要な女性患者さん。両ひざの痛みで外出が難しく、通院ができないということで、訪問診療を開始しました。

ご主人が急な病気で入院され、彼女は自宅で一人暮らし。認知症もあり、夫の入院の経緯もよく理解できず、時には妄想のような言動も見られました。介護や診療に対して拒否的な姿勢もあり、関わるスタッフが戸惑う場面もありました。

■根っからの阪神ファン 明るさと礼節にあふれた方
それでも彼女は根っからの阪神タイガースファン。体調が安定してからは私たちの訪問を心待ちにしてくださるようになり、飲み物を用意してくださったり、デイサービスで当院のことを宣伝してくださったりと、心温まる交流が続きました。根はとても明るい女性で、根っからの阪神ファンであり、体調が良くなってからは、私たちの訪問を歓待してくれるようになった。ヘルパーさんに私たちにあげるための飲物の購入を依頼したり、デイサービスでは、当院の宣伝もしてくれていたようで、本当にうれしい限りであった。
気に入らない人は口悪く罵ることもあったけど、私たちにはとても穏やかに接してくれて、いつも私たちが帰るときには、痛い脚を引きずりながら、玄関先まで来てくれて頭を下げる姿に、礼節を知っていおられる方だと心打たれました。

目が見えないこと、体も思うように動かすことができないので、お世辞にも片付いた部屋とは言えないような
状態ではあったけど、気持ちを込めて、私たちを迎えてくれていることは、ヒシヒシと伝わってくるような、そんな
風に、私たちと関わってくださっており、私たちも訪問を楽しみにしていた。阪神タイガースが優勝したときに、缶ビールを買って待っていたときには、ちょっと当惑したが・・・。

■突然のお別れ、そして届いた一通のはがき ある日、彼女が急に引っ越すことに。ご主人の逝去を受け、ご家族やケアマネージャーが話し合って決断されたようでした。私たちにできることは見送ることだけ。「どうか、新しい場所でも穏やかに過ごしてほしい」と祈る気持ちで、お別れの日にはみんなで記念写真を撮りました。

数週間後、届いたのは彼女からのはがき。住所もクリニック名も不完全。でも、「住所がわからなくてゴメンナサイ」との大きな文字に、精一杯の気持ちが込められているのが伝わってきました。

■筆跡にあらわれた新たな一面 達筆すぎて、最初は誰からのはがきかもわからなかったほど。流れるような繊細な文字に、私たちは新たな一面を垣間見たような気持ちになりました。「こちらの人もいい人ばかりです。ご安心ください。」という言葉。別れる前、引っ越しして施設に入るけど、そこの人たちになれるだろうか?ととても心配されていた。大丈夫といい聞かせて見送った私たち。そんな私たちを気遣ってくださった、心優しい言葉であった。

■一期一会を胸に 患者さんも医師も、一期一会。医療の現場では、礼節や思いやりの心を忘れてはいけないと、改めて気づかせてくれる出来事でした。

そのはがきは、今もクリニックに大切に飾られています。

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