突然ですが、皆さんは、「the Pitt(ピット)」というアメリカの医療ドラマをご存じでしょうか?U-NEXTで放映されており、ドラマ界のアカデミー賞と言われるエミー賞を本年度受賞し話題を呼んでおり、何人かの人からうわさを聞いて、ついに私もU-NEXTを契約して、見てしまいました。


この中で主役を演じるノア・ワイリーは、かつて話題となった、同じくアメリカの救急医療現場を描いたテレビドラマ「ERー救急救命室」のとき、研修医役で登場しており、このドラマをみて、救急医療に飛び込んだ医療従事者は少なくないはずで、何を隠そう、私もその一人。
かつての研修医が、今度は指導医なり、ERに登場する。そこに描かれているのは、救急医療現場のまさに‘‘リアル‘‘だ。押し寄せる患者、少ない医療スタッフで対応し、何時間も待たされ腹を立てる患者たち。それでも懸命に患者を救おうとして取り組む、研修医や学生医師。助けたくても、助けられない命・・・。はじめて知ったが、題名の「ピット」には「地下室」という意味合いがあるそうで、予算も限られるなかで地下牢に閉じ込められた中で懸命に救急医療に身をささげる現実が描かれている。まさに、命に対して、懸命に取り組み医療者の苦悩を追体験できるような、そんな描写があり、一見の価値はある。
さて、なんで、突然、こんなドラマ紹介をしたかといいますと、今回お伝えしたいのは、このドラマの中で印象に残った言葉を紹介したいからだ。救急医療には、日本であっても、矛盾がたくさんある.急患を受け入れれば受け入れるほど、医療者が疲弊し、費用がかさばるという現実。しかし目の前の命は待ったなし・・・、言いたいことはたくさんがあるが、そのなかでも、この言葉がとても印象に残ったので、紹介させていただきます。
ただ、ここから以降はネタバレになります。もし、ドラマを見てみたいという方は、見てから読まれることを強くお勧めします。
紹介したい言葉は、別れの言葉。ドラマでは、亡くなりつつある認知症を抱えた父を前に、どうしていいか困惑する子どもたち。その子どもたちに、ノア・ワイリーが伝えるという形で紹介されている。
ハワイに古くから伝わる、Ho‘oponopono(ホ・オポノポノ)という伝統があり、そこで伝えられている、別れの際にかける言葉として紹介されている。ハワイで2年間の老年医学研修をしたことがあったが、このようなことは聞いたことがなかったし、詳しくは調べてもいないので、その伝統がどのようなものであるかどうかまで説明することができません。でも、このドラマで紹介された言葉は、至ってシンプルで、ドラマ中でも、「それだけ?」と言い返す、兄弟のシーンが描かれていました。
曰く、
1 Thank you ありがとうと感謝を伝える
2 I Love You 愛していたことを伝える
3 Forgive You あなたを許す つまり、そのすべてを許すということ
4 Please Forgive Me 私のことも、許してほしい お互いを許しあうという意味だろうか?
在宅訪問診療を行っていると、看取りに関わらさせていただく機会がある。人の人生に深くかかわらさせていただける機会であり、これは医師としては光栄で、多くの経験をさせていただく機会であると同時に、最愛の人の死に際に困惑し、それでも頑張ろうとする、支える家族にどのように接していいのか、自分はとても迷うことが多くあった。
そのため、このようなシンプルな考え方は、とても参考になる。複雑すぎたら覚えられない。とくに、こういう動転した時間には、とても無理だろう。それが、こんな簡単なことで、心情を表し、伝えることができる。話ができる状態であれば、話し合うこともできる。家族なりであれば、気後れして言いにくいことも、この言葉を借りて、伝えることができる、そんな風に思えてなりませんでした。
いかがでしたでしょうか?また、何かの参考になればと願ってやみません。
話題に出した、the Pitt ですが、なんと来年にはSeason 2がリリースされるようです。どうなるのか?とても楽しみですね。